伊藤和夫の新英文解釈体系。オークションの高額落札本(最近では概ね50万円前後)として知られ、ヤフオクでは5年に1度くらいの頻度で現れる。実は自分も手に入れたクチだった。「本当にそれだけの価値があるのか?」と聞かれるが、大事なところだけ自分用としてコピーし、そして時間を空けてからヤフオクに出品すれば、決して高い買い物にはならない。50万円で手に入れたらまた50万円で売れるのである。かくいう自分も既に売ってしまった。
この本の凄さは、高校生が理解するには難しいが、教える仕事に就くとわかる。いろんな学参を読んでると、「倒置とか連鎖関係詞とか二重限定とか、前置詞の例外とか、もう少し例文が出てればいいのに」と思う痒い場所を狙って伊藤和夫が搔きむしってくれるのだ。学術本でこれらのネタを探し回っていては膨大な時間がかかる。しかしこの本では、受験用として知りたいネタを一冊に凝縮してくれているのだ。
否定語や準否定語が文頭に出てくると、後ろは倒置になるが、倒置にもいろいろとパターンがある。たとえば、
1.否定の副詞+v+S+V
Never did I dream of it.
2.否定語+副詞句+v+S+V
Never in all the history of mankind did a nation make such a stride as Japan then did.
3.否定語+副詞節+v+S+V
Not until all attempts at negotiation had failed did the men decide to go on strike.
4.Only+副詞+v+S+V
Only so is communication possible.
5.Only+前置詞句+v+S+V
Only after a century and a half of confusion was the royal authority restored.
6.Only+(接続詞+S+V)+v+S+V
Only when our arms are sufficient beyond doubt can we be certain beyond doubt that they will never be employed.
といった具合で、サンプルが出てくる。この中では3.や6.を普通の本で探すのが意外と大変。1.を説明したところで、問題集で2.や3.が出てくると、「これは何ですか?」と聞かれる。そういう場合はこの本から例文を借りて仕組みを説明するとわかりやすくなる。
また、前置詞といえば後ろに名詞が来るものが、二重前置詞という例外も紹介されている。
二重前置詞が許されるのは基本的に「時」と「場所」である。たまにexcept, save, instead ofなどもある。
自分が新宿アイランドにいったとき、
「工事中のため階段をご利用ください」という英文がむりやり、
Because of under construction, please use the staircase.とした掲示を見たが、これは二重前置詞にしてはまずい箇所である。Since the escalator is under construction, please use the staircase.にする方がベターだ。もちろん授業の英作の添削でも使える。
他にも関係代名詞の二重限定を図を使って説明していたり、現在分詞、過去分詞の自動詞タイプと他動詞タイプで意味が分かれることを表にしていたり、ネタの宝庫である。
これらは生徒が英作文を書いたときに、知らず知らずのうちにやってしまうミスなのだが、文法の仕組みを説明をするときにこのような図が非常に役立つ。
英語といえば語順が大事だが、他にも倒置になる箇所として否定語以外に、
So+v+S
There+V+S
X+be+S
(Happy is the child who has such a mother.など)
M+V+S
(At the upper end of the street stood the church.など)
O+S+V
(This Lincoln did when very young.)
(This I told him a few words.)
(Going by railroad I do not consider as travelling at all.)など。
S+V+C+O
(I made known my intention to my parents.)
などなど、あらゆるネタが出てくる。英語講師のトリセツといったところだろうか。高校生が実際に読むことはないと思うが、大学生になり、塾講師のバイトをした時にこの本の威力を知るかもしれない。いまや伊藤和夫の本を使ってる高校生はすっかり聞かなくなったが、どれも素晴らしいクオリティなのだ。本はカバーではなく、中身で判断すべきなのだ。