和文英訳は、文法・語法を問う設問として究極の形式といえます。
大学受験では東大、京大をはじめ多くの国公立大学で出題されています。
私立では慶應経済や慶應文、慶應理工、慶應医学部などでは難度の高いものが出されています(対する早稲田では最近は和文英訳は見られなくなってきています。代わりに自由英作が出題されるケースが多いです)。
自由英作は自分の得意な表現に逃げ込める一方、和文英訳は日本文が指定されている分、表現を知らないと書けないので難易度が非常に高いです。
指導経験上、和文英訳が出されない大学を受ける人も和文英訳の練習をする方が圧倒的に力がつきます。では、どういった形で力がつくのか。
一つ例を見てみましょう。
次の英文はThe Economist誌 November 24th 2024年からのUrban miningに関する記事です。プリント回路基板には金がたくさん含まれており、うまく抽出すれば金鉱から金を発掘するようにお金になる話です。まずはこちらの英文を読んでみてください。
A different sort of pay dirt, however, offers the prospect of a much greater return for urban miners: the printed circuit boards (PCBs) found in rapidly growing mountains of electronic waste. Estimates vary, but a tonne of PCBs could contain 150 grams or more of pure gold, which, because it does not tarnish, produces stable electrical connections.
では、今度は次の日本文を英訳してみてください。
「太郎君は100万円以上のお金をもっています」
多くの人は、
Taro has more than one million yen.
と書くのではないでしょうか。
しかし、これだと1,000,001円以上(つまり100万円より多い)の意味になってしまいます。
「以上」にする場合は、one million yen or moreとする必要があります。
そして、この表現がさりげなく、先ほどの英文で150 grams or moreと出てきていたのです。
和文英訳をやっておくと、英文を読んでるときに細かい箇所に意識がいくようになります。そして英文を和訳するときにもその繊細さが現れるようになります。
心理学では次にような面白い現象があります。
「今読んでる本から少し顔を遠ざけ、周りにある「赤色」に注意を払ってください。しばらくはその赤色に意識が向いた状態で読むことになります」
「家から駅までの途中にある消火器はどこにあったか、すべて答えてみてください。言えない場合、それは見えていたかもしれないけど見えていなかったのです」
「消火器に注目せよ」という情報がくれば、見えるようになります。
人間は、目で見ているものが必ずしも見えているわけではないのです。
和文英訳もこれと同じで、「〇〇に注意せよ」という問題を解くことで、英文がちゃんと見えるようになります。
ちょうど楽器を習っていたことのある人は、習う前と比べて、同じ曲を聴くと違った楽しみ方、違った視点に気づくことができるように、着眼点が進化するのです。