大学受験の英文では、しばしばレトリックが使われます。
レトリックとは何か。
佐藤信夫のレトリック感覚から代表的なものを挙げると、
直喩、隠喩、換喩、提喩などです。
直喩とは、「ドナルド・トランプはライオンのような人だ」と、「~のような」と喩えて表現します。
隠喩とは「ライオンがまた大統領選で勝利を収めた」のように、トランプをライオンとストレートに表現します。
換喩とは、何かを想起させるために、名称を貸し出すこと。
「漱石をよむ」といえば、読んでる対象は夏目漱石という人物ではなく、漱石が書いた作品。
「自転車をこぐ」といえば、漕ぐのは自転車ではなくペダル。
「ペンは剣よりも強し」といえば、ペンは言論を指し、剣は武力を指します。
提喩とは、大きな概念で小さなことを表し、小さなことで大きな概念を表すことです。
「今日は飲みに行こう」といえば、「飲む」はアルコールを指し、
「今夜、打とうぜ」といえば、「麻雀を打つ」ことを指します。
これらを意識したうえで、試しに英文和訳を見てみましょう。
Some countries are not only not gaining; they are growing poorer, relatively and sometimes absolutely.
gainは「~を得る」の意味ですが、もちろんここでは提喩として使われています。
「~を得る」→「お金や資源を得る」→「豊かになる」の意味になります。
つまり、
「ある国々は豊かさが増していないだけでなく、相対的にも、また、ときには絶対的にも貧しくなっている」
となります。
セミコロンは等位接続詞ですので、not onlyに合わせて、butだと解釈できます。
もう一つ見てみましょう。大阪大学の問題です。
Growing up in a society, we learn how to use gestures, glances, slight changes in tone of voice, and other auxiliary communication devices to modify what we say and do.
devicesはもちろん機材ではなく、「手段」という意味で隠喩で使われています。
英文を読むと、機材は関係なく、身体を使った表現方法の話だと分かるからです。
「社会のなかで成長しながら、私たちは言うことやすることを修正するために、身振り、まなざし、声の調子のわずかな変化、そして他の補助的な意思疎通の手段をどのように利用するか学ぶ」
このようにレトリックはさりげなく英文のなかで顔を出します。じっくりと内容を把握してから丁寧に訳さないと思わず作問者のトラップに引っ掛かってしまうものです。
和訳のコツは、いきなり手を動かすのではなく、
じっくりと英文を何度も読み、内容をしっかり理解してから手を動かすことです。
最後に、レトリックとはあまり関係ないですが、内容を正確に把握しないと解けない和文英訳の問題を、2014年の慶應経済から紹介してみたいと思います。
慶應経済のこの日本文の中には、いくつものトラップが仕掛けられています。
M1「福沢君が部活やめるんだって?」
「やめるんだって?」は「本当なのか」とし、前から決まっていることなのでwillは使えず、be going toを使い、
Is it true that Fukuzawa is going to quit the club?
T1「みんな期待してたのに、こんなことになってしまってさあ」
「何を期待してたのか」を補い、「こんなこと」とは「やめること」と表現します。
Everyone was expecting that he would be a wonderful member. I'm too sad to hear he's going to quit.
M2「やっぱり考えが甘かったんだよ」
「考え」とは誰の考えなのか。みんながっかりしているので、周囲が期待しすぎていたのだとわかります。「甘い」とは「あまりに楽観的だった」と表現を補います。
After all, we were too optimictic about him.
もしくは、
Anyway, we were expecting too much from him.
T2「大丈夫。あくまでも新入部員が入るまでの我慢だから」
大丈夫は、OKでいいのかどうか。「あくまでも」は「ただ」と考えてjustを使い、「我慢」はput up withが使えないので(put up withは嫌なことに耐える意味です)、「参加するまで待つ」と捉えます。
また、until内は、時や条件を表す副詞節なのでwill joinは使えず、現在形にする必要があります。
That's all right. We just have to wait until a new member joins us.
少しフランクに書くなら、
Never mind. We just have to wait till another new guy comes to us.
実に多くのトラップが仕掛けられていましたが、問題文から自分で正確に内容を把握し、情報を補うことが試されています。
英文和訳も和文英訳も、
1.どんな状況なのか正しく把握する
2.不足する情報を日本語で補う
3.違和感があれば別の表現に置き換える
この三点ステップを意識してみてください。